第27話   自称殿様の釣の御仁 U   平成16年10月12日  

釣場の状況を見るために南突堤の付け根付近に出掛けた。そこで一週間ぶりに自称例の殿様の釣の御仁に出会った。小さなシノコダイ釣に夢中であった。そこで「そんなチッチャなシノコダイの数釣は、貴方には似合わないじゃないですか?二、三才でも釣るならともかく・・・・!」と云った。


「今は磯で狙っても、ウキ釣りのバカ野郎ドモが撒餌をして邪魔でしょうがないから暇を持て余して釣っている。あんなウキ釣りなんか、釣には入らない。漁師でもあるまいし、黒鯛釣の醍醐味は脈釣りに限る。」と相変わらず減らず口をのたまう。「シノコダイは非常に美味しい。下手な魚よりもずっと美味しいから釣っているんだ。第一、母ちゃんが楽しみにして待っているからなぁ!」

人づてに最近知った事だが、彼はS市の議員さんらしい。道理で口が達者だと思った。他の議員にやり込められるようでは、議員さんは務まらない。今日の彼は、相変わらず自慢の2間一尺(3.9m)の改造継竿(何本かの種類の竿を合わせて自分好みの一本にした振出竿)を使っている。大山の釣具屋のデッドストックの中から竿を選び出して自分好みの竿に仕立てたものだ。口達者な弁舌を振るって釣具屋を、だまくらかして安くさせて作らせた物に相違ない。「俺は釣具屋にいつも客を紹介してやっているのだから、俺の云う事は何でも聞いてくれるのだ。この前も二階に上がって、めぼしい竿を56本探して1万円で持ってきた。俺のやり方が酷かったからか、別の大山の釣具屋が最近店を閉めてしまったようだ。ハッハッハッ・・・!!!」そんなことばかりやられたのでは、釣具屋さんも潰れるのは当然だ。昔からの釣具屋さんは、釣の好きな人が多かった。だから釣り人の気持ちになって釣具を売っているのだから、決して高くは売っては居ない。どちらかというと薄利少販の店が多く、餌の販売で何とか生活をしている。それにも増してお人好しが多いのである。だから釣具の量販店見たいな所が出てくると、商売としては成り立たない事が多く、潰れてしまう傾向にある。釣の好きな人は趣味に徹する事が必要で決して商売の釣具屋をやってはいけないのだ。その証拠に初代が、釣が好きで釣具屋をやるけれども二代目は全然やらないという釣具やさんは、結構頑張っている。

まったく自分の天下見たいにやりたい、云いたい放題の人物である。そんな彼に議員さんが勤まるのかと思った。良く船で鯛を釣る話もするが、それこそ漁師まがいの釣である。云っている事とやる事が違っている事が自分で分からない人である。それでもこだわりがあって、最近流行の夜釣りの電気釣りなるものは釣ではないとおっしゃる。なんだかんだと屁理屈ばかりの人であるが、釣の腕前だけは確かに一流であるから大したものだ。が、しかし決して一流の釣師(釣士)とは云えない人物である。

釣師は他人に教えを請われて指導はしても、決して自分の釣を押し付けたり、自慢をしてはならないからだ。彼は釣師(釣士)ではなく、しいて云えば、名人より格下の釣氏の最下位とは云えるかな(?)と思う。世の中にはそんな人は一杯居る。釣の腕は一流であっても、品位、品格とか人格の形成がまるで無っていない釣り人の多いこと・・・・。それに反して、世に隠れた釣師は一杯居る。その人たちの多くは、ひっそりと自分の釣を楽しんでいるのだ。